ウミガメ、知れば知るほどとんでもない存在。
海の中をスイスイと優雅に泳ぐ「ウミガメ」。無駄のない泳ぎが生み出す、どこか神秘的な姿に心奪われる人も多いはず。
ウミガメは世界に7種類生息しており、恐竜時代から姿を変えず生き抜いてきた「生きた化石」です。しかし現在、生存率わずか0.2%という過酷な環境や、地球温暖化による性別の偏りなど、絶滅の危機に直面しています。この記事では、ウミガメの驚きの能力から保護の現状までを詳しく解説します。
1億年前から海にいた?ウミガメの進化と歴史
ウミガメの歴史は驚くほど長い。なんと1億年以上も前から、この地球を生きていたんです!
カメの仲間が陸上に登場したのは、恐竜時代の2億5000万年前ごろ(中生代三畳紀)。その後、約1億年前に、陸で暮らしていたカメの一部が海へと進出しました。つまり、リクガメの仲間がウミガメへと進化したのです。
彼らはなぜ海を選んだのでしょうか?
当時の陸上は、巨大な恐竜をはじめ天敵だらけ。海のほうがはるかに安全な場所で、安定して食糧を確保できると考えたからだとされています。
▽史上最大のカメ「アーケロン」
6,500万年前の白亜紀には、「アーケロン」という史上最大のカメがいたとされています。横幅約5m、全長約4m(甲長約2.2m)!まるで恐竜のような迫力です。雑食の彼らは、力強い顎でなんでも食べていたのだそう。ちょっと怖いですね…。

甲羅の色や形に隠された秘密
ウミガメは、海での生活に適応するために体を進化させました。背中にある大きな甲羅「背甲」や、お腹の「腹甲」。甲羅は硬くて体を守ってくれるけれど、それだけじゃありません。
ここからは、甲羅の秘密を詳しく見ていきましょう。
背甲(背中側の甲羅)
まず背中にある大きな甲羅「背甲」から。特に色や形がポイントです。
黒、茶色、オレンジ、いろんな色が入ってまだらですよね。これは海底の砂浜や珊瑚、海藻にとけ込むカモフラージュなんです。

また、甲羅の表面には「鱗板(りんばん)」と呼ばれる板状のウロコがついています。その主成分はケラチン!つまり、人の爪や髪の毛の材料となるタンパク質の一種です。
ケラチン繊維のかたまりである“サイの角”と似たつくりで、硬いのに骨ではないところが興味深い。サイの生態については、以下の記事でまとめているので興味のある方はあわせてご覧ください。
平たい形で水の抵抗を受けにくくなっているのも巧みな進化の証。骨格を見ると、その平べったさがよくわかります。

腹甲(お腹側の甲羅)
一方、お腹側の「腹甲」は白っぽい色をしています。これは、下から見る魚や天敵の目を欺くため!日光に照らされた海水にとけ込むカモフラージュとなっているのです。
「カウンターシェイディング」と呼ばれる現象で、多くの海の生き物もこれと同様の仕組みを持っていますよ◎

世界のウミガメは全7種類
ウミガメの種類と特徴

世界のウミガメは全部で7種類です。 日本近海では主にアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種を見ることができます。
| 種類 | 特徴 |
| アオウミガメ | グレートバリアリーフで最もよく見られる |
| アカウミガメ | 同様にグレートバリアリーフでよく見られる |
| タイマイ | サンゴ礁地帯に生息。べっ甲の素材として歴史的に重視された |
| オサガメ | 最大種。深海を好み、独自の進化を遂げた |
| ヒラタウミガメ | オーストラリア周辺の固有種 |
| ヒメウミガメ | グレートバリアリーフでも稀に見られる |
| ケンプヒメウミガメ | メキシコ湾に生息。グレートバリアリーフでは見られない |
オーストラリア旅で訪れる「グレートバリアリーフ」には、ケンプヒメウミガメ以外の6種が生息しています。
▽ウミガメの分類学的な位置付け
ウミガメはワニやヘビと同じ「爬虫類」の仲間。分類学的には、脊椎動物門-爬虫綱-カメ目-ウミガメ上科に属しています。
甲羅がよく発達した「ウミガメ科」と、甲羅が未発達で皮膚に覆われている「オサガメ科」の2グループに分けられますが、ダイバーが出会うほとんどがウミガメ科の仲間たちです。
独自の進化を遂げた「オサガメ」は別格の存在
ウミガメの中でも、私たちが特に気になっているのが「オサガメ」。先ほど説明した「オサガメ科」は、この1種だけで構成されています。
背甲を見れば、他のウミガメとは一目瞭然!鱗板(りんばん)がなく、背中に7本のキール(線)が入っています。まるでボートの船底みたいです。固い甲羅はなく皮膚でおおわれているのも特徴的です。
そして、ウミガメ最大種と言われるだけあって、体長は約130〜200cm。大きい個体では体重900キロを超えることもある、恐竜のようなウミガメです。

さらに驚くのが潜水能力!オサガメは最大で水深1,200m以上の潜水記録があり、これは爬虫類の中で最も深い記録です。お腹の「腹甲」がなんと凹むようになっているため、深水による圧力にも耐えられます。
他のウミガメはこれほど深くは潜れないし、爬虫類全体で見てもNo.1。オサガメは、最も深い海に辿りつけるカメなのです。
地球の磁場をコンパスにして生きてる
1万kmを移動するウミガメの旅
ウミガメといえば、長い距離を旅する生き物として知られています。
種類や個体にもよりますが、日本で生まれたアカウミガメを例にすると、5年で約10,000kmを移動します。地球1周が約40,000kmなので、その1/4もの距離を泳いでしまうんです。
しかも、でたらめに泳いでいるわけではありません。
地磁気・太陽・嗅覚を使ったナビゲーション
ウミガメは、餌や海水の温度変化に合わせて移動しながら、きちんと向かうべき方角を理解しています。
その鍵となるのが「地球の磁場」。ウミガメは、地球の磁気のわずかな違いを感じとり、「地磁気の地図」を頭に記録しているようなのです!!

さらに、太陽の動く方向や角度をコンパスのように利用し、海の中でも空の変化を感知しているとされます。「嗅覚が優れている」のも特徴で、匂いを手がかりにエサ場やふるさとを探す能力も。
コンパスも地図もGPSも持たずに大海原を正確に泳ぐ姿は、まさに「感覚の達人」です。
産卵と生存率0.2%の現実
数十年後に戻る「生まれた浜」
ウミガメのメスは、出産のときだけ陸に上がります。しかもその場所は、自分が生まれた故郷の砂浜!たとえ何千キロも離れていても、出産のために故郷へと帰ってくるんです。

ウミガメが出産できる年齢は種によってさまざまで、およそ10〜50歳。つまり、数十年ぶりに生まれ故郷に帰ってくるのも珍しくありません。
産卵〜ふ化の流れ
夜の闇の中、母ウミガメは海岸を這って進み、後ろ足を器用に使って深さ50〜70cmほどの穴を掘ります。そこで約30分かけて、ツヤツヤした白い卵を約100個産卵。産んだ後は砂でしっかり隠して、海に戻っていきます。

通常、卵の大きさは“ピンポン玉”くらい。ただし、オーストラリア周辺に生息する「ヒラタウミガメ」の卵は“ビリヤード玉”ほどの大きさです。
孵化には日光による温度が必要で、天気や外部の条件に応じて約55日〜75日で孵化します。ただし孵化までの道のりは安全ではありません。カビが生えたり、アリに穴を掘られて水浸しになったりと、多くの危険が待ち受けているんです。
それでも何とか乗り切った赤ちゃんたちは、卵から孵ると、夜にいっせいに砂から這い出して海を目指します。しかしここからが本当の試練です。

彼らは光に向かう習性があるため、人工の明かりに引き寄せられて道路に出てしまったり、鳥やカニの被害に遭うことも…。海まで辿り着いても、母ガメに会うことはありません。そこから自力で生き延びて行かなければならないのです。
生まれて最初の2日間、子ガメたちは興奮状態でガムシャラに泳ぎ続けます。生まれてすぐから誰にも頼らず生きていくウミガメ…本当にたくましい存在です。
生存率0.2〜0.3%という現実
そんな子ガメたちの生存率、皆さんはどのくらいだと思いますか?
研究により幅がありますが、推定で0.02~0.3%と言われています。つまり1,000~5,000個の卵で、わずか1~3匹程度しか成体まで生き残れない過酷な世界なのです。
生存確率が低い上に、食料や装飾品目的での乱獲、魚を獲るための網や釣り針に誤ってかかることによる溺死、産卵に適した砂浜の減少などによって、ウミガメは数を減らしています。
最後に、ウミガメが置かれている状況について見ておきましょう。
なぜ減少?絶滅危惧の理由
かつて世界の海には「1兆匹」ものウミガメがいたと推定されています。現在の個体数は、その約2,500分の1。わずか数百年という人類史の中で、ウミガメは激減少してしまいました。
なぜ、ウミガメはここまで数を減らしてしまったのでしょうか。
主な原因は、私たち人間の活動によるものです。特に深刻な4つの要因をまとめました。
- 混獲(こんかく): 漁業の網や針に誤ってかかり、溺死してしまう
- 海洋プラスチックごみ: レジ袋を好物のクラゲと間違えて誤飲する
- 産卵場所の喪失: 砂浜の護岸工事や、人工の明かりによる子ガメの方向喪失
- 地球温暖化: 砂の温度上昇により、赤ちゃんの性別が「メス」に偏る
現在、国際的な評価指標である「IUCNレッドリスト」では、複数のウミガメが「絶滅危惧種」に分類されています。
| 種名 | 絶滅リスクのランク(IUCN) | 深刻度 |
| タイマイ | 絶滅危惧IA類(CR) | ごく近い将来、絶滅の危険性が極めて高い |
| アカウミガメ | 絶滅危惧IB類(EN) | 近い将来、絶滅の危険性が高い |
| アオウミガメ | 絶滅危惧IB類(EN) | 近い将来、絶滅の危険性が高い |
中でも、べっ甲の原料として長年利用されてきたタイマイは、最も深刻な危機的状況にある種の一つです。
では、なぜ特定の種がここまで追い詰められたのか。そして、近年さらに深刻化している新たな問題とは何なのか。次の章から、ウミガメ減少の背景を具体的に見ていきます。
絶滅危惧種「タイマイ」とべっ甲の歴史

最も深刻な絶滅危機(CR:Critically Endangered)に分類されるウミガメ「タイマイ」。
この種がここまで数を減らした背景には、長い歴史を持つ伝統工芸品「べっ甲(べっこう)」の存在があります。
べっ甲とは何か?タイマイとの関係
べっ甲とは、ウミガメの一種であるタイマイの甲羅を加工して作られる工芸品のことです。
黄色地に褐色の斑点(斑点模様)が混じる独特の模様と、美しい光沢が特徴で、加熱すると形を変えられる性質を持っています。
プラスチックが存在しなかった時代、この加工性の高さから、べっ甲は「天然のプラスチック」とも呼ばれました。かんざしや帯留、櫛、メガネ枠など、日常生活の中で使われるさまざまな製品に加工され、世界中で重宝されてきました。
需要が生んだ乱獲の歴史

タイマイの乱獲が本格化したのは、大航海時代以降とされています。ヨーロッパを中心にべっ甲製品の需要が高まり、その流れはやがて世界中の海へと広がっていきました。
20世紀に入ると、日本はべっ甲の主要な輸入国の一つとなり、べっ甲細工は日本の伝統工芸として発展します。その一方で、装飾品の美しさを支える裏側で、タイマイの個体数は急激に減少していきました。
1980年代にはワシントン条約(CITES)が発効し、タイマイおよびべっ甲製品の商業目的での国際取引は原則として禁止されました。結果として大規模な乱獲は抑えられましたが、タイマイの個体数が十分に回復したわけではありません。
地球温暖化が引き起こす「オス不足」
乱獲や環境破壊に加えて、近年ウミガメを追い詰めている、もう一つの深刻な問題があります。
それが、地球温暖化による「オス不足」です。
ウミガメの性別は、受精の時点で決まるわけではありません。
卵が埋まっている砂の温度によって決まり、結果として気温の上昇が性比を大きく左右するという特徴を持っています。
性別の境界線は「29.5度」
- 29.5度より高い: メスが生まれる
- 29.5度より低い: オスが生まれる
つまり、地球温暖化が進むほど、誕生する赤ちゃんガメの性別はメスに偏っていくのです。
ほぼ全てがメスだった調査結果
この影響は、すでに現実のデータとして確認されています。
WWFオーストラリアの調査結果によると、グレートバリアリーフのアオウミガメ411頭の個体を調査したところ、南部で生まれた個体の約65~69%がメスだったのに対し、北部で生まれた個体は幼体の99.1%がメス。ほぼ全てがメスだったのです。

同様の傾向は世界各地で報告されています。
アメリカ・フロリダでは、アカウミガメの赤ちゃんの90%以上がメスであったという調査結果もあります。
▽温暖化以外にも重なるリスク
個体数減少の理由は、気温上昇による影響以外にもあります。
・人工照明が明るく、孵化した赤ちゃんガメが海まで辿り着けない
・砂浜が護岸工事によってコンクリート化されてしまった
こうした環境の変化も、ウミガメを追い詰めています。生まれ故郷の環境が変わったことにより、緊急対応として近隣の砂浜に産むこともあるようですが、生まれた場所に執着する種ほど繁殖に失敗するリスクが高まっているのが現状です。
私たちにできること
今日からできる小さな行動
ウミガメたちを守るために、私たちが今日からできることがあります。
1)プラスチックの使用を減らす
2)ゴミを正しく処理する
3)ビーチクリーンに参加する
4)ウミガメ保護団体を支援する
5)そして、お土産でウミガメの甲羅製品を買わない
どれも特別なことではありません。でもこうした小さな一歩の積み重ねが、海の生き物を守る大きな力になるはず!yanakijiも意識しながら、毎日を生きていきたいと思います。
未来にウミガメを残すということ
何万キロも広い海を旅し、数十年の時を経て、もう一度故郷の浜へ戻ってくる。
その姿は、恐竜時代から1億年以上続く生命の営みです。私たちも小さな行動を積み重ねて、これからの世代にもちゃんとその姿を見せてあげたいですね。
ウミガメと出会える未来を、一緒に残していきましょう!!

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