アンタナナリボ大学の教授にインタビュー!なぜ、マダガスカルで日本語を教えるのか?

アンタナナリボ大学の教授にインタビュー!なぜ、マダガスカルで日本語を教えるのか?

「日本人は私たちを差別せずに対等に扱ってくれる」
マダガスカル人の大学教授が、日本を愛する理由の第一として挙げた言葉である。

今回、マダガスカルの東大とも言われるアンタナナリボ大学(※)の日本語コース長である「アンビニンツア教授」と対談させていただきました!実はマダガスカルって日本語を学ぼうとする人がとっても多い国。アジアから遠く離れたマダガスカルの地でなぜ日本語なのでしょうか?その理由に迫ります。

※マダガスカルには6つの国立大学がありますが、アンタナナリボ大学はその中で最も優れた大学とされています。
詳細は、記事の最後に記載していますのでそちらもご覧ください!

インタビューを受けてくださったのは、マダガスカルで日本語を20年間教えるラクトマナナ先生(親しみをこめてこのように呼ばせていただきます)です。先生は、日本とマダガスカルの架け橋となる存在で、今年4月27日には、日本の上川外務大臣がアンタナリボ大学を訪問した際にも対応されていました。
長年にわたり日本語教育に尽力され、両国の文化交流にも大きく貢献されている方です。

PROFILE
ラクトマナナ・アンビニンツア教授
文学人間科学部/日本語コース長

日本に約8年の滞在経験があり、以下の大学で学ぶ。
・2000-2004年:立命館アジア太平洋大学(APU)
・2005年:政策研究大学院大学(GRIPS)

ポッドキャストでは、教授ご本人の生の声もお届けしています。ぜひお聴きください。


Q.日本語を教えはじめて何年になりますか?

1999年から日本語を教え始めました。ただ、途中で日本に留学した時期もありましたから、正式に公務員として教えるようになったのは2013年からです。

Q.日本に興味を持った最初のきっかけは何ですか?

高校時代に学んだアジア史がきっかけです。マダガスカルはフランスの植民地でしたから、フランスやアメリカの歴史はよく学びましたが、アジアについてはあまり知る機会がなかったんです…。
その時に、アジアのこと、日本のことをもっと学びたいと思うようになりました。

Q.アジアの国の中でも特に日本が気になった理由は何ですか?

私は日本の武道が大好きなんです。日本に留学していた頃には、大学のクラブで合気道もやりました。
また、日本はイメージとしても「良い国」だと思っていたんです。日本に訪れてからも、その印象は変わりませんでした。

一方で、マダガスカルでは日本語を学ぶ環境が限られていることも分かっていましたから、自分が少しでもマダガスカルの若者たちの助けになればと思い、日本語教師になる道を選んだのです。


Q.学生たちが日本語を学ぶ理由にはどのようなものがありますか?

学生たちの動機は大きく分けて3つです。民間の学校では日本の文化を学びたいという理由が多く、大学生では日本に留学するためや就職のために日本語を学びに来ます。

マダガスカルは島国(国土は日本の1.6倍)で、地理的にはアフリカに位置しています。
しかし、最も多い民族は東南アジアにルーツを持つ人々で、アジアの島国である日本を意識する知識人が多いのだそう。

さらに、マダガスカルはサブサハラ(北アフリカを除く貧困が多いアフリカ国)において、もっとも日本語を学んでいる人が多く日本に憧れを持ってくれている国なんです!

Q.日本語コースには何名の学生がいますか?

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教室の様子

アンタナナリボ大学の日本語コースには約140名の学生が在籍しています。
その中で、1年生は60~80人ほどと比較的多いのですが、進級するにつれて人数が減り、3年生になる頃には30人ほどになります。途中で辞めてしまう学生が多いのが現状なんです。

それでも、最後まで学び続ける学生たちは日本への情熱が非常に高く、その中から毎年3~5名ほどが日本への留学を果たしています。

Q.アメリカやフランスなど様々な留学先がある中で、彼らはなぜ日本を選ぶのでしょうか?

多くの学生は、日本の漫画やアニメに強く影響を受けています。たとえば、『NARUTO』のような作品を通じて日本文化に興味を持ち、それが大学で日本語を学ぶきっかけとなっているんです。

マダガスカルでは、ちょうど明日から「マンガマンガ」という祭りがあり、そこではコスプレイベントもあります。
こういったイベントが、アジアや日本への興味を深める場となっています。
今のマダガスカルの若者たちはそういうことが大好き。学生たちのために、東京の若者たちの日常生活の動画を見せることもありますよ。

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教室に置いてあった日本語の本と日本地図

マダガスカルの学生たちが憧れるのは、日本の「今」でした。
日本のアニメーターに魅了されたり、東京の若者の生活に憧れていたり。実際、マダガスカルの若者は、イオンモールで1日楽しく過ごせるくらい、日本の現代文化に対する強い憧れを持っています。
だからこそ、先人たちが作り上げた信頼だけでなく、今を生きる日本の人々の力も大きいのだと胸を張りたい。

ちなみに、これは多くの旅人が共感することだと思いますが、世界的には『ワンピース』よりも『ナルト』の方が認知度が高いんです。コスプレでも、外国人はナルトが多いイメージ。

Section3. マダガスカルから見る日本


Q.マダガスカル人から見て日本はどのような国ですか?

マダガスカルはフランスの植民地でしたから、フランスに行くと私たち(マダガスカル人)は人種的に下に見られることがあります。平等じゃないんですよね。
でも日本はそのような差別をしません。日本人は平等に接してくれる=日本は「良い国」なんです。

学生たちは、日本の文化を知れば知るほど「行きたい」という気持ちが強くなるようです。

教室の様子

海外でディープな環境になればなるほど人種差別を感じることもありますが、日本が差別をしない民族だと外国の人から言ってもらえたのはとても嬉しかったです。
yanakijiの旅を通して気づいたのは、意外にも日本から遠く離れた南米やマダガスカルなどの地域で、日本人に対して好意的な思いを抱いている人が多いということでした。

Q.はじめて来日された際、思い描いていた日本と現実のギャップはありましたか?

日本には二つの印象がありました。一つは1995年の阪神淡路大震災の影響で『地震が多い国』というイメージ、もう一つは袴や着物を履いている人が多いというイメージです。
特に後者については、街中でそうした服装の人を見かけるものだと思っていました(笑)

実際に訪れてみると、街中で袴や着物姿の人はほとんど見かけず、ギャップは感じつつも失望はありませんでした。むしろ、マダガスカルで日本語を教える身として、日本の文化や生活を自分の目で見て体験できたのはとても良い経験でした。

ただ、マダガスカルでは電車が走っていないので、日本の主な移動手段が電車であることには最初はとても戸惑いました。これは、私の教え子たちも驚く点かもしれません。

Section4. 教師として、働く父親として大事にしたいこと


Q.日本語を教える中で難しいと思うことはありますか?

日本語を教えるのは難しいですが、教師として常に学び続ける必要があると感じています。

たとえば、学生が興味を持つテキストは何かを考え、そのテキストが日本の文化に関するものであれば、その周辺の知識も知っておかなければいけません。学生に質問されたら、正確に答えることが教師の責任ですからね。

そのため、毎日Youtubeやインターネットを活用し、効果的な教え方を模索しています。

授業では使いませんが、教室には学生が自由に読めるよう漫画も置いていて、3年生になると『名探偵コナン』をある程度読める学生も出てきますよ。

教室に置いてある『名探偵コナン』

Q.日本の文化を教える中で見えてきた、マダガスカルの課題ありますか?

課題というよりも「考え方」の違いですが、日本人に比べてマダガスカル人はルーズな人が多いんです。
遅刻をしても、『交通機関が遅れた』『家族のため』などと言い訳を繰り返します。
ですから、学生たちには、もし日本人と一緒に働きたいなら、まず「働き方」と「考え方」を変えることが必要だよとよく伝えています。

Q. 逆に日本の問題点はありますか?

こちらも問題点というよりも文化の違いですが、マダガスカル人は家族と仕事のバランスを何より大切にします。一方で、日本人はまず仕事が優先というイメージです。
残業も多いイメージなので、もし私が日本で働いていたら大変だったと思います。

なぜなら、私は父親として子どもとの時間が何より大切だからです。
それに、子どもに対する責任がありますからね。

「日本は家族よりも仕事を優先する。」
これは、マダガスカルに限らず、海外に行くとよく言われる『あるある』です。
本当は、家族を幸せにするために働いているはずなのに、世界中で「仕事ばかりの日本人」と思われてしまうのはなんだか切ないですよね。

日本で一生懸命働いている人たちの姿を知っているからこそ、そんな評価をもどかしく感じます。
私たちは旅をする人も好きだけど、それと同じくらい仕事にプライドを持って働く人も好きなんです。
だからこそ、日本人らしい働き方を見出して、それが「理想の働き方」として他国から憧れられるような未来を目指せたらと思うのです。

もし、また「日本人は仕事ばかりだよね」と言われたとき、胸を張ってこう伝えたいんです。「日本にはこんな素敵な働き方があるんだよ!」と。

以上、本日インタビューに応じてくださったのは、アンタナナリボ大学の文学人間科学部/日本語コース長のラクナマナナ先生でした!貴重なお時間ありがとうございました!

最後に、先生は「直近で日本に行ったのは2022年、コロナの終わり頃でした。今はロボットが活躍するレストランがあると聞き、もう一度日本を訪れたいなと思っています。」と語ってくれました。

ぜひ日本でお待ちしています!!

アンタナナリボ大学について

アンタナナリボ大学

アンタナナリボ大学は、マダガスカルの首都・アンタナナリボに位置する総合国立大学で学生数はおよそ36,000人。社会経済経営学、医学、法学、理学、農学、教育学、建設学、そして文学・人間科学部があります。
その中でも今回インタビューに応じてくれたラクナマナナ先生が所属するのは、文学人間科学部の日本語コースです。この学部には12の学科があり、約6,500人の学生が在籍しています。

日本語コースでは、2015年10月からJICAの海外協力隊員が派遣され、日本語教育の支援を行ってきました。

日本語コースの校舎

また、2016年3月には日本大使館の「草の根文化無償資金協力」により、日本語コース専用の校舎が新たに建設されています。校舎の入り口に「ようこそ」と書かれていたのが印象的でした◎

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