若者たちの言葉が教えてくれた、マダガスカルの「今」と新時代の予感。
今回は、アンタナナリボ大学で日本語を学ぶ4人の学生にインタビュー!
アンタナナリボ大学は、マダガスカルにある6つの国立大学の中でトップを誇る大学で、日本の「東大」のような存在。選ばれた一握りのエリートたちが通う学校です。
そんな彼らに、日本への熱い想いや将来の夢、学生生活について楽しく語ってもらいました。
私たちはマダガスカル滞在中に、地位のある社会人の方から話を聞く機会はたくさんありましたが、若い世代の言葉を聞くのは今回が初めてでした。若い世代ならではの視点や価値観を直接聞くことができ、マダガスカルの新しい側面をまたひとつ知ることができました。
学生たちとの雑談を通じて感じたのは、大人たちが語る過去や伝統とは異なる、マダガスカルの「今」。
そこには世代間の考え方の違いが垣間見え、特に以下の2つが印象的でした。
①家族の考え方について
前回、インタビューを受けてくださったアンビニツア教授は、マダガスカルは『家族第一主義』であるという考えを強調していましたが、学生たちは「まだ」そうは考えていないように思います。
将来、家族を持つことで考え方が変わるかもしれませんが、現時点では若い世代の多くが自分の夢や目標を大切にしている印象を受けました。
日本を愛し、日本語教育に長年尽力されてきた「アンビニツア教授」とのインタビュー内容は以下の記事をご覧ください。
②民族差別について
マダガスカルには18の民族が暮らしています。18民族の中でもアンタナナリボ大学に通う学生は、かつて国を支配した歴史を持つ「メリナ族」、教育熱心な「ベツィレウ族」の出身者が多いと言われています。私たちが今まで話してきた年配の方々からは「民族間に差別的な意識がある」と聞いていましたが、若い世代の学生たちからはそうした考えはほとんど聞かれませんでした。
このような世代間の価値観の違いには、グローバル化や教育の普及といった要因が影響していると考えられます。また、フランス植民地から独立してから時間が経つにつれて、植民地時代の苦い記憶が徐々に和らいでいくのではないでしょうか。
※1960年6月26日にマダガスカルは完全な独立を達成します。
それでは本題にいきましょう!!
大学生たちのプロフィール
今回インタビューに応じてくれたのはアンタナナリボ大学の日本語コースで学ぶ、こちらの4名!!
ハーリーさん
【第一印象】おしゃれで笑顔が可愛い。 あどけなさの中に、大人っぽい雰囲気も。
【出身】アンタナナリボ
【学年】2年生
【民族】メリナ族(両親ともに)※
【兄弟構成】2人姉妹(妹がひとり)
※メリナ族は、マダガスカルに存在する18民族のうち約40%を占める最大の民族。かつてマダガスカルを統一した歴史を持つため、特権階級に属する人が多いのが特徴。
イさん
【第一印象】背が高い。落ち着いた雰囲気で物事をじっくりと考えている印象。
【出身】アンタナナリボ
【学年】2年生
【民族】ベツィレウ族 ※ とメリナ族のハーフ
【兄弟構成】一人っ子
※ベツィレウ族はマダガスカルで3番目に大きな民族で、メリナ族と同じく特権階級が多い。彼の第一印象の通り、勉強と読書が得意で特別視される民族。
ロディックさん
【第一印象】少年のような純粋さで何にでも興味津々。
整った顔立ちでモテそう。
【出身】アンタナナリボ
【学年】1年生
【民族】不明 ※
【兄弟構成】一人っ子
※顔立ちが整っていることから、本人以外の3人は「ヴェズ族(美人が多いことで有名)の血が入っているのでは」と話していた。おそらく、ヴェズ族とサカラヴァ族(どちらもマハザンガ州出身)のハーフに、さらにメリナ族の血が混ざっている可能性が高いと考えられる。
タフィタさん
【第一印象】野心家。ムードメーカー。
日本への留学経験があり、日本語をかなり理解している。
【出身】アンタナナリボ
【学年】3年生
【民族】メリナ族(両親ともに)
【兄弟構成】3人兄弟 ※
※郊外は6〜7人兄弟の家庭が多いが、首都のアンタナナリボで3人兄弟は珍しい。
ポッドキャストでは、大学生たちの初々しい生の声もお届けしています。ぜひこちらもチェックしてみてください!
Section1. 日本語に興味を持ったきっかけ
マダガスカルは、サブサハラ(北アフリカを除く貧困が多いアフリカ国)において、もっとも日本語を学ぶ人が多い国。なぜ、日本語に興味があるのか聞いてみました。
Q.日本語に興味を持ったきっかけは?
イさん: 私はアニメを見るのが大好き!だから日本語を勉強したいと思うようになりました。特に好きなアニメは「スラムダンク」で、原語で意味を理解したいんです。
ハーリーさん:原宿スタイルやコスプレなど東京のファッションに興味があります。そのためには日本語を学ばないといけないと思いました。また、私は日本の季節が好きで、季節ごとに色が変わるのがとても綺麗だと感じています。
ロディックさん: 日本でラーメンを食べたいです!
Q.留学期間はどれくらいを考えているの?
ハーリーさん: マダガスカルには「文部省奨学金」という奨学金があり、1年、3年(専門学校で学ぶ場合)、4年(研究をする場合)の選択肢があります。私は専門学校で学ぶことを希望しています。
Q.留学中、家族と離れて寂しくない?
ハーリーさん: 寂しい気持ちはもちろんありますけど、それは仕方のないことですよね…。
▼yanakijiコメント
日本のポップカルチャー、特にアニメや漫画は日本語を学ぶ大きな動機となっているようです。
「日本のアニメや漫画が好きで、原語で楽しみたい」という気持ちが、若者たちの学習意欲につながっています。
スラムダンクが好きな彼はかなり身長が高い!!マダガスカル人は日本人より平均身長が7㎝低く、小柄な人が多い中で、身長に恵まれた彼がバスケットボールに憧れを抱く気持ちもわかります。このような憧れは、日本の少年たちと変わらないなと思いました。
また、女性のファッションもよく聞けば、伝統を重んじたり、大手メーカーではなく裏原(ウラハラ)を指したりしていました。日本のポップカルチャーはキラキラしていますから、日本の若者たちと同じように、またはそれ以上に憧れを抱いているように感じます。
アンビニツア教授は「マダガスカル人は家族を何より大切にする」と話していましたが、彼らは自分の夢に真っ直ぐで寂しさを切り離して考えているのがとても頼もしい!!
Section2. 日本に行ったらなにを学びたい?将来の夢は?
Q.日本に行ったらしたいことはある?
ロディックさん:漫画家を目指しているので、漫画の勉強をしたいです。
ハーリーさん:日本に留学してファッションを学びたいです。実際に裏原(ウラハラ)に行ってみたいです。
イさん: 私はカメラが大好きで、カメラマンになりたいです。日本に留学して写真をたくさん撮りたいです。
▼yanakijiコメント
まだ日本に来たことないことや若さから、夢は具体的なものではなくどこか憧れのイメージが強いようです。それでも、日本のカルチャーに対する彼らのキラキラとした目は希望に満ちていました。
カメラが好きという彼は、私たちが持ってきていた3台のSONYカメラに興味津々。
日本のフォトスポットについても聞かれたので、北海道のラベンダー畑や白川郷の合掌造りの景色をオススメしておきました!雪の降らないマダガスカルだから、冬の合掌作りの雪景色は特に喜んでくれるんじゃないかな。
Q.日本に留学経験あるタフィタさんはまた日本に行きたい?
実際に留学経験のある学生からリアルな感覚を聞いてみたくて質問してみました。
タフィタさん:
はい!また行きたいです。日本で「応用外国語」を学び、修士課程もしくは博士課程まで進みたいと考えています。その先の具体的な進路はまだ決まっていませんが、マダガスカルがいま直面している問題は教師不足です。そのため将来的には大学の先生として、日本で並んだことや経験をマダガスカルで伝えていけたら、と思っています。
ちなみに私が日本に抱いているイメージは、留学で日本に行く前と行った後で大きな違いはありませんでした。金閣寺を楽しみに訪れたのですが実際に見た金額時は予想通りで、日本の文化についても想像していた通りだと感じました。
▼yanakijiコメント
マダガスカルには、日本語を学びたい人がたくさんいる一方で、日本語教師が足りていないことが深刻な問題だそうです。しかしこれから、彼らのような夢を持った若者が未来の教育を支える存在になるのだと思うと、とても頼もしく感じました。
また、彼らはYouTubeなどで現在の日本を学んでいるため、アンビニツア教授が日本に初めて行ったときに感じたようなギャップがない点も現代的だと思いました。
Section3. マダガスカルの学生生活とお金事情
Q.みなさんの出身はどこ?兄弟はいる?
マダガスカルの郊外は6人や7人兄弟の大家族が一般的。都心部も兄弟が多いだろうと思い、質問してみました。
ハーリーさん: みんなアンタナナリボ出身で、私は2人姉妹です!
イさん・ロディックさん: 一人っ子です。
タフィタさん: 3人兄弟です。
▼yanakijiコメント
なんと!!!これまで訪れたマダガスカルの村や田舎が全国的にもそれがスタンダードだと思っていたのですが、首都・アンタナナリボ周辺は一人っ子の家庭も多いとのこと。郊外では若いうちから子どもを育てることが一般的ですが、首都はそうでもないようで、こうした点は日本と共通していますね。
Q.ピザはよく食べるの?
首都のアンタナナリボを車で走っていると、驚くほどたくさんのピザ屋さんを見かけました。流行っているのかなと思い、聞いてみました。
ハーリーさん: 私たち学生にとってピザは高いので、奨学金をもらった時や特別なイベント以外では食べません。
Q.どんなアルバイトをやっているの?
ハーリーさん: マダガスカルのほとんどの学生はアルバイトをやっていません。働くとしたらフルタイムか夜勤しかないため、学業との両立が難しいんです。
▼yanakijiコメント
少し意外な回答でした。しかし、よく考えると日本のように週3回、5時間ずつといった形だとそのぶん教育も多く必要 。そもそもそれだけの時間的・経済的余裕がないのだと思います。
また、ピザについても、これまで会ったマダガスカルの方々もあまり食べないと言っていました。つまり、アンタナナリボに点在するピザ屋は、一般の学生や市民向けではなく、富裕層や外国人をターゲットとしたビジネスなのでしょう。
Q.民族同士の派閥や差別があると聞いたけど、普段の生活の中で感じることはある?
マダガスカルはかつてフランスの植民地でした。
フランスの植民地の支配手法は、国内の民族を分離させそれぞれを対立させることです。そうすることでフランスは仲裁役として介入し、敵視されずに統治できたのです。この方法が影響を与え、モロッコではベルベル人とアラブ人の2つの民族の間に今でも強い対立があります。
マダガスカルでも同じように、18民族を敵対させて統治する手法をとられたことから、今でも年配の方々は多かれ少なかれ民族間の軋轢を感じており、民族間での差別もしています。さて、若者はどうなのでしょうか?
タフィタさん: 民族同士の派閥や差別は見たことも聞いたこともないです。
イさん: 感じたことがありません。
ロディックさん:民族の違いという考えが私にはないです。
ハーリーさん: 話し方を聞けばどの民族かはわかりますが、それによって差別をすることはないです。民族の違いは関係ありません。
▼yanakijiコメント
最後は、少し踏み込んだ質問でした。これまで出会ってきた年配の方からは「民族間に差別的な意識がある」と聞いていましたが、大学生たちはそんな意識とは無縁。この世代の意識の変化に、強い希望を感じました。
おそらく20年前には民族間でさまざまな摩擦があったのでしょう。
日本人でも、過去の出来事から他国に反感を持つ年配の方もいますが、実際にその国の若者と接してみると、その固定観念が必ずしも当てはまるわけではないと感じます。もちろん、過去のことが簡単に解決できるわけではないし、そういった歴史を知ることは重要ですが、未来を作るのは「今」を生きる若者たちの考えだと思います。なぜなら若者は『今』を表現し『未来を写す鏡』なのですから。
そういった意味でも、マダガスカルの未来はとても楽しみだと感じました。今回出会った学生たちの中から、将来マダガスカルを導く大統領や、国の未来を切り開くリーダーが生まれるかもしれない。そうなると素晴らしいなと思います。
以上、学生たちとの楽しい雑談会でした!みなさん、ありがとうございました!!
ちなみに、雑談の間に食べてもらった日本のお菓子も大好評でした!
私たちが持っていったのは、越後製菓さんの「ふんわり名人 北海道チーズもち」と「ふんわり名人 北海道大豆使用きなこ餅」。
やなぎーは「きなこ餅推し」なのですが、世界ではやっぱりチーズ味の方が人気でした…!!