サメと聞くと、どんなイメージが浮かびますか?
映画『ジョーズ』の印象から、「人食い」「海の殺し屋」といった印象を持っている方も多いのではないでしょうか? でも、実はそのイメージ、大きな誤解かもしれません。
今回はサメの本当の姿に迫ります!データと生態から、彼らが本当に「怖い生き物」なのか見ていきましょう。
サメ=怖いの真実。人を襲うのはわずか2%!
世界にいる約500種のサメのうち、危険なのは10種だけ
冒頭でも少し触れましたが、サメが怖いのはやっぱり『ジョーズ』をはじめとした、映画の影響が強いのではないでしょうか。

世界には約500種類以上のサメが生息していますが、その中で「人の死亡事故に関与した記録がある種」は、ホホジロザメやオオメジロザメなど、わずか10種前後とされています。これは全体の約2%にすぎません。(※1)
さらに言えば、人への噛みつき事例まで含めても確認されているのは35種ほど(全体の約7%)。つまり、数字の上でも、ほとんどのサメは人間にとって危険な存在ではないことがわかります。(※2)
年間死亡者数は約5人
フロリダ自然史博物館がまとめた『ISAF(International Shark Attack File)』によると、1990年代以降の長期平均では、サメによる世界全体の年間死亡者数はおおよそ5〜6人程度とされています。(※3)
この数字、多いと思いますか?他の死因と比べてみましょう。
例えば…
- 落雷で亡くなる人:推定、年間約24,000人(ジェイコブ・D・ジェンセンらによる論文データ)
- 自撮り中に亡くなる人:年間約43人(2011-2017年の世界平均、Journal of Family Medicine and Primary Care)
数字だけを見ると、実は「サメよりスマホでの自撮りの方が危険」とも言えます。(※4)
ぶっちゃけ、サメよりシャチの方が危険
しかも…海の中で本当に恐ろしいのは、サメではなくシャチです。

海のハンターなんて呼ばれるシャチは、サメを完全に狩る側。彼らは、獲物であるサメを裏返して気絶させてから、栄養価の高い肝だけを食べるという高度な狩りをします。
サメにとってシャチは天敵。見つけた瞬間、一目散に逃げ出すほどです。
海の食物連鎖のトップは「シャチ」なんです。
▽プチ豆知識:トニック・インモビリティ
サメは仰向けになると「トニック・インモビリティ」という現象でフリーズしてしまいます。シャチはこの習性を巧みに利用して狩りをするんです。賢すぎる…。
【性格】サメは臆病で繊細な生き物
“最強の捕食者”というイメージとは裏腹に、サメってとても繊細な生き物です。
さらに、サメは視力が優れているわけではなく、細かい形状や色の識別はあまり得意ではありません。(その代わり、動きやコントラストの変化を捉える能力に長けています。)

視力の代わりに活躍するのが嗅覚。血液1滴を50m先で感知し、左右の鼻孔で匂いの時間差を感じ取って方向まで特定する、まさにチート級の能力です。
でも、やっぱりとっても臆病です。カメラのフラッシュをたいた瞬間に逃げたり、ちょっとした泡音に驚いて離れていく個体も少なくありません。だから撮影中は「こちらが遠慮する」くらいの配慮が必要なほど。凶暴なイメージとは真逆の、繊細な一面を持っているんです。
【体】無限に生える歯と、サメ肌の真実
臆病で繊細である一方で、体の機能としては驚くべきものを持っています。それがサメの歯と皮膚。
生え替わり続けるサメの歯
サメの歯は抜けてもすぐに新しいものが生えてきます。たとえ抜けても、後ろから新しい歯が次々と押し出される“ベルトコンベア”のような構造になっていて、種類によっては一生の間に2万本以上の歯を生やす個体もいるんだとか。(※5)
まさに「落ちても即リロード」の使い捨て設計なんです!

エナメル質でできたウロコで覆われた皮膚
サメは皮膚のつくりも面白い。サメが由来となった「サメ肌」という言葉は乾燥したザラザラとした肌を指しますが、本物のサメ肌はまるで違います!
彼らの体の表面を覆うのは、「皮歯」と呼ばれる“エナメル質でできた小さなウロコ”。この皮歯がサメの体を流線型を保ち、水の抵抗を大幅に減らしているんです。つまり、高性能スーツを着ているようなもの。

実はこの構造、競泳用水着にも応用されています!オリンピックで話題になった「フルボディスーツ」も、サメの皮歯が持つ流体力学をヒントに開発されました。(※6)
【繁殖】生まれる前からサバイバル
臆病なのに繁殖に関してはかなりワイルドです。ここではサメの繁殖について見てみましょう。
胎内で兄弟を食べる種類も存在
サメには、卵を産む「卵生」と、子が母親の体内で育ってからうまれる「胎生」の両方が存在します。
そして恐ろしいことに一部の種では、最初にお腹の中でふ化した子サメが、後からふ化してきた兄弟を食べて生き残るという生存競争が存在するようです。もう”生まれる前からバトルロワイヤル”。
代表的な種類として「シロワニ(サンドタイガーシャーク)」が挙げられます。(※7)

交尾時にメスに噛みつく習性
交尾の際には、オスがメスにがぶりと噛みつき、動けないようにしてから交尾する習性が知られています。
そのためメスの体には、噛み跡が残っていることが多い。つまり、噛み跡が多いほどモテてきた個体だということがわかるのだそうです。
こんな感じでかなり野生的な姿を見せる彼らですが、これらはあくまでもサメ同士の内輪の話。人間に向けた攻撃性とは別物ですので安心してくださいね。
▽プチ豆知識:サメの漢字の由来
魚へんに交わると書いて「鮫(サメ)」。漢字の由来は諸説ありますが、興味深いのは”交わる”=交尾の仕方が特殊だったからこの漢字になったという説です。
もしかしたら、昔の人も交尾を見て驚いちゃったんじゃないかな…。
オスには交接器(=ペニス)が2本ある
野生的とは少し違いますが、繁殖まわりの話題でもうひとつ。
サメのオスには「クラスパー」と呼ばれる交接器が2本あります。クラスパーとは、哺乳類でいうところのペニスに相当する器官のこと。左右に1本ずつあって、交尾の際はどちらか片方を使います。
サメの種類や個体によっては左右で大きさが異なるため、自然と使いやすい方を選ぶのだそう。
多様なサメの世界!個性豊かな仲間たち
「サメ」と一口に言っても、種類によって体のサイズも性格も寿命もさまざま。最後に、個性豊かなサメの仲間たちを少しだけご紹介します。
ネコザメ(ゆるキャラ系)

まずはじめに紹介したいのがネコザメ。日本近海でも見られる種類で、名前のとおり顔がちょっとネコっぽいのが特徴です。水族館でもよく見かけるので、ご存じの方も多いのではないでしょうか?
にやっとした口元は、まるでゆるキャラのよう。泳ぎもゆっくりで岩場でじっとしていることが多い、温厚な性格の持ち主です。

卵も“ねじれた螺旋形”でかわいらしく、まったりサメ界の代表格と言えるでしょう。
ジンベエザメ(おだやかな巨神)
世界最大の魚・ジンベエザメ。キャラクターのモチーフになることも多い人気者です。

海の中の大きな生き物として思い浮かぶのが「クジラ」ですが、彼らは哺乳類なので、魚類の中ではジンベエザメが最大。その大きさは平均で12m。最大で20mクラスの個体もいて、体重は20トン(ゾウ3頭分)にもなるんだとか。(※8)
しかし、こんなに巨体でありながら、食べるのはプランクトンや小魚、オキアミだけ。歯は小さく使わず、口を開けて泳ぐだけで栄養を摂取する「こし器スタイル」です。
つまり、「どこにでもある、小さなものだけを食べて成長する」という生き方を選んだ、超効率的なサメなんです。

「狩らずに満たす」というサメ界きっての省エネ戦略家。「力はあるのに使わず、無駄な争いもしない。」この生き方が結果として“世界最大の魚”になったってのが、なんともかっこいい。
さらに、性格が穏やかで一緒に泳げるのも特徴です。ダイバーの中には“ジンベエザメ推し”も多いんだそうですよ!私たちも一緒にどこかで泳げたらいいな〜。
ホワイトチップリーフシャーク(暗闇のハンター)

「ホワイトチップリーフシャーク」は、ナイトダイビングでよく出会うサメ。
昼は岩陰で休み、夜に行動する“夜行性タイプ”です。「暗闇のハンター」なんて呼ばれるのはそれが理由。名前はちょっと強そうだけど、実際はめちゃくちゃおとなしいんです。
人間に興味を持つことも少なく、近づきすぎなければ向こうから逃げるくらい。実際、人を攻撃した記録はなく、おそらくカメラのフラッシュにも逃げちゃうと思います。
ナイトダイビング初心者でも安心して観察できるサメで、グレートバリアリーフのナイトダイビングでは高確率で会えるのだそう。オーストラリア旅が楽しみです。
ハンマーヘッドシャーク(未来顔のサメ)
別名、シュモクザメ。ハンマーヘッドという名の通り、頭の形がT字型になっているのが最大の特徴です。

そしてもう一つ特徴的なのが、360度近くを見渡せる広い視野。
ただし前述した通り、サメは目が悪いため特殊な仕組みでまわりの状況を感知しています。
どういうことかというと…
T字型の頭の先端には、電流を感知する「ロレンチーニ器官」が並んでいます。この器官は、視覚や嗅覚を補助するセンサーのような役割を果たし、海底に隠れた獲物の位置を正確に把握するのに役立っています。
この器官は全てのサメが共通で持っているものですが、T字型の頭をもつハンマーヘッドシャークは特に面積が広くて高性能。スーパースキャナーを搭載しているようなイメージです。
ちなみに…ロレンチーニ器官では、人間の心拍や筋肉の動きも検知できると言われています!!視力が悪くても問題ないくらい、彼らはとんでもない“第六感”を持っているんです!(※9)
オオメジロザメ(どこにでも行ける凶暴者)

オオメジロザメは、海だけでなく川でも泳げる「淡水対応」のサメで、この点が他の種類と大きく異なります。
さらに凶暴者として知られており、実際にアメリカの川で5人を襲った記録があります。川にも現れる可能性があるのはかなり恐ろしい…。(※10)
しかも…映画「ジョーズ」のモデルは、一般的に「ホホジロザメ」と言われていますが、こちらのオオメジロザメの説もあるのだそう。それほど凶暴で恐ろしい、数少ない「本当に危険なサメ」の一種です。
ニシオンデンサメ(時を超える深海の長老)
最後にちょっと変わり種を…。ニシオンデンサメは、北大西洋の深海に暮らすサメです。

彼らの驚くべき特徴は…なんといっても長寿なこと。サメの寿命は一般的には20〜30年と言われていますが、ニシオンデンサメは400年以上生きた個体が発見されているんです。(※11)
400年前といえば、江戸時代どころか織田信長が生きてた頃。まさにサメ界の時空の旅人です。
しかも、熟するまでに150年ほどかかると言われているので、150歳で思春期を迎える感覚でしょうか。
深海に住むサメだからか白目がかった目で、ゆっくり泳ぐ姿は独特。サメ界の時空の旅人であり、深海の仙人でもある存在です。
まとめ:サメは臆病で、おとなしくて、奥深い生き物だった
今回はサメの生態をお届けしました!「サメ=怖い」って思われがちですが、実は臆病で、おとなしくて、めちゃくちゃ奥深い生き物。
静かにサンゴ礁を巡る「ホワイトチップ」、巨体の体を持ちながらもプランクトンしか食べない「ジンベエ」、未来的なシルエットで群れる「ハンマーヘッド」。いずれも人を狙う存在ではありません。

距離と礼儀を守れば、怖さより海のリズムの心地よさが勝つはず。次に出会うとき、サメが少しだけ身近で格好いい存在に感じられますように!!
ポッドキャストでもこのテーマについて語っています!ぜひこちらもどうぞ。
旅の情報など、ご質問のある方は[お便りフォーム]よりご連絡ください!
脚注
※1※2 人を襲うサメの種類
フロリダ自然史博物館のISAFによると、無挑発攻撃に関与が確認されているサメは35種。そのうち致命的な攻撃記録があるのは10種のみ。人間を襲う事故はホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメの3種によって引き起こされる場合がほとんどです。
参考サイト:FLORIDA MUSEUM ISAF / 攻撃に関与した種
※3 サメによる世界全体の年間死亡者数
このデータは、2024年に「フロリダ自然史博物館のISAF」によって発表されたレポートを参考にしています。
参考サイト:FLORIDA MUSEUM ISAF / 2024年、サメによる無差別咬傷が激減
※4 「サメよりスマホでの自撮りの方が危険」
自撮りによる死亡者数は、家庭医療・プライマリ・ケア(Primary Care)分野の国際的な学術誌「Journal of Family Medicine and Primary Care」に掲載された研究データを参考にしています。
サメと自撮りによる比較に関しては、あくまでも死亡者数に基づくものです。
参考サイト:National Library of Medicine / 自撮り:恩恵か害か?
※5 年間2万本以上の歯を生やす個体も存在
ホホジロザメは生涯で2万〜3万本もの歯を生え替えることができます。種類や食性によって交換速度は異なりますが、活発な捕食者ほど高頻度で歯を交換することが知られています。
※6 サメの皮歯をヒントに開発された競泳水着
サメ肌を参考にした競泳水着は、2000年のシドニー五輪ではじめて使われました。
参考サイト:日経クロステック / オリンピック競泳水着をテクノロジーする
※7 胎内共食い
「胎内共食い(子宮内カニバリズム)」には2つのパターンがあります。
ひとつ目は「卵食」。母体が作った未受精卵や卵の黄身を食べて栄養を摂取する方法で、ホホジロザメやアオザメがこれに該当します。
ふたつ目は「兄弟共食い」。最初に孵化した子サメが、他の受精卵や胚を胎内で食べてしまうというものです。本文でも述べたシロワニがこのタイプに当てはまります。
参考サイト:NATIONAL GEOGRAPHIC / 第3回 共食いも胎盤も! サメは「繁殖様式のデパート」
※8 ジンベエザメは魚類最大
ジンベエザメの体のサイズは「アニコム どうぶつ コミュニティー」のコラムを参考にしています。
参考サイト:アニコム どうぶつ コミュニティー / 現存する魚の中で最大!ジンベエザメってどんな魚?大きさや特徴は?
※9 サメが持つ「ロレンチーニ器官」
ロレンチー二器官については、「日経サイエンス」のバックナンバーを参考にしています。
参考サイト:日経サイエンス / サメの第六感 獲物をとらえる電気感覚
※10 オオメジロザメがアメリカの川で5人を襲撃
1916年7月、アメリカ・ニュージャージー州で起きた「ニュージャージー・サメ襲撃事件」。12日間で4人が死亡、1人が重傷を負いました。ニュージャージー州のマタワン小川(淡水域)で襲われた記録があることから、オオメジロザメが主犯である可能性が極めて高いとされています。
小説『ジョーズ』のモデルとなったと言われている事件です。
参考サイト:LIVING SHARKS MUSEUM / サメによる事件
※11 ニシオンデンサメは400年以上生きる
ニシオンデンザメの寿命については「NATIONAL GEOGRAPHIC」の記事を参考にしています。