砂漠に轟く、ラムセス2世の野心。
エジプト最南端の砂漠都市に立つ「アブシンベル神殿」は、ラムセス2世の野心そのもの。
王の権力と、最愛の妻ネフェルタリへの想いを刻んだこの神殿には、3300年前の歴史が今も息づいています。
この記事では、現地で実際に感じたアブ・シンベル神殿の圧倒的スケールと、王の想いが宿る数々の見どころをたっぷりご紹介します!!
アブシンベル神殿とは?
アブシンベル神殿は、エジプト最南端、スーダンとの国境からわずか40キロの場所にあります。建造者は古代エジプトで“最も偉大なファラオ”と称される「ラムセス2世」で、彼の治世において約20年の歳月をかけて造られました。

ラムセス2世の治世は約67年ととても長く、数多くの軍事遠征や積極的な外征を行いました。そんな彼は自身の名前を永遠に残すため、かつて無い規模の建築事業を展開。アブシンベル神殿は、その野心の最高到達点とも言えます◎
大神殿と小神殿から成る、2つの聖域
アブシンベル神殿には、大神殿と小神殿の2つがあります。

大神殿は太陽神ラーを、小神殿は女神ハトホルを主祭神としています。何より特徴的なのは、小神殿がラムセス2世の王妃・ネフェルタリに捧げられたものであるということです!

ネフェルタリは、ラムセス2世が最も愛した王妃として知られる女性。彼女は知恵と品格を兼ね備えた人物であり、政治の場でもラムセス2世から厚い信頼を寄せられていたといわれています。
当時の考え方では、王妃に神殿を捧げることは非常に珍しいことでした。それだけアブシンベル小神殿は、ラムセス2世の彼女への愛が深かったことの証なのです。
史上最大の救出プロジェクト
このアブシンベル神殿、実は水没の危機にさらされたことがあります。前回の記事でアスワン・ハイダムを取り上げましたが、そのダムを作る際に形成された巨大な人造湖「ナセル湖」が、アブシンベル神殿を含む多くの古代神殿を飲み込んでしまう危機が訪れたのです!

アスワン・ハイダムの様子は以下の記事でまとめています!
地域の発展にダムの建設は必要不可欠。でも、そのせいで古代の遺跡を失ってしまう…これって非常に難しい問題ですよね。。。
そんな危機に立ち上がったのが、ユネスコでした。ダムも作るし、古代遺跡も残すために、ユネスコを中心に史上最大の遺跡救出プロジェクトが始まりました。
▽プロジェクトの内容は以下
期間:1964年〜1968年(約4年)
費用:約4,000万米ドル(現在の価値で3億ドル以上)
参加国:50ヶ国以上が資金と技術を提供
このプロジェクトによって、アブシンベル神殿は約60m上方、ナイル川から約200m離れた丘へ無事移設されました。もともとは岩を削って造られた岩窟神殿ですが、移設後はコンクリートのドームに支えられる形で存在しています。

また、この大規模なプロジェクトがきっかけで、遺跡や自然を保護する「世界遺産」という概念が作られたと言われています。アブシンベル神殿は、今日の世界遺産制度のきっかけのひとつとなったわけです。
なぜこの辺境の地につくられた?神殿建設の理由
ここまで、アブシンベル神殿の基本情報と救出プロジェクトについてお話してきましたが、そもそもなぜエジプトの首都から遠く離れたこの辺境の地に神殿は建てられたのでしょうか?
主に考えられている説が、アブシンベルの隣に位置するヌビア地方(現・スーダン)への牽制です。
ヌビア地方は金の産地で、エジプトとは古くから深い関わりがありましたが、当時のエジプトにとって脅威となる存在でもありました。つまり、ヌビア地方との国境近くにあるアブシンベルに巨大な神殿を建てることは、南から来る者に対して「エジプトの力」を見せつける象徴だったのです。
営業時間と入場料
2025年10月時点の営業時間と入場料金は以下の通りです。
営業時間:午前6:00〜午後5:00(年中無休)
入場料金:大人750エジプトポンド、学生375エジプトポンド
※毎年、2/22と10/22だけ大人1200エジプトポンド、学生600エジプトポンド
実際に訪れる際は、以下のエジプト観光・考古省のWebサイトから最新情報をご確認ください↓
https://egymonuments.gov.eg/en/archaeological-sites/abu-simbel
アブシンベル神殿の圧倒的スケールに感動!実際に訪れて
ここからは実際にアブシンベル神殿を訪れた感想をお届けしていきます!
ラムセス2世の権力の具現化、大神殿を見学
<神殿入口>
到着してまず目に入るのが、大神殿の正面を飾るラムセス2世の巨大坐像4体です!

像の高さは約22mと、座っているにも関わらずかなりの大きさ。ラムセス2世の「俺だ!俺だ!俺だー!!」という感じの自意識を感じますね!
ちなみに、この4体の像のうち1体(向かって左から2番目)は、神殿が完成した数年後に起きた地震で上半身が崩れてしまいました。像の足元にゴロリと転がっているのがその上半身です。

これは移設プロジェクトの際に、神殿の「歴史的な姿」を尊重するという方針が取られたため、崩れた像はあえて修復されず、そのまま残されています。
また、ラムセス2世の像の足元には、王妃や子どもたちの像も置かれています。きじーが大好きなホルスちゃんの像もいましたよー!

<大列柱室>

そして、大神殿の中に入ると、出迎えてくれるのは大列柱室。

ここにはオシリス神となったラムセス2世の像が4体ずつ2列、計8体いて迫力があります。

古代エジプトにおいて、オシリス神は死と再生の神であり、ファラオが死後にオシリスとなって永遠の生命を得るという信仰がありました。ラムセス2世をオシリス神として表現することで、彼の不死と神性を強調しているんです。


<至聖所>
大列柱室、小列柱室と通り抜け、最奥には至聖所。


ここにはラムセス2世と神々の4体の像が並んでいます。この神殿の面白いところが、10月22日と2月22日の年に2回、太陽の光が神殿内部を通過し、最奥にあるこの像たち(4体の像のうち、冥界神・プタハを除いた3体)を照らすように光が当たるということ。

この2つの日はそれぞれ王の誕生日と即位の日であると言われていますが、それを裏付ける直接的証拠はないとされています。
実際に、ガイドさんがライトで光を当てて、その様子を再現してくれました!古代の建築技術の精密さ感じられる興味深い現象です。
小神殿を見学:愛する王妃への献身
続いて見学したのが、この神殿に来たからにはあわせて見学したい小神殿です!
<神殿入口>
小神殿の正面には6体の像が佇んでいます。ラムセス2世の像が4体、そして彼が愛するネフェルタリの像が2体。足元には大神殿と同じように子どもたちの像が並びます。

そう、王妃の像とファラオの像が同じ高さで並んでいるんです!古代エジプトでは、王妃の像はファラオの像よりも小さく作られるのが一般的。異例なこの対応からは、彼女への深い愛と敬意を感じますね。
<列柱室>
大神殿に比べるとコンパクトですが…神殿の中は列柱室、前室、最奥の至聖所と、大神殿と同じような造りになっています。

列柱室の柱にはハトホル女神の顔が彫刻されていました。ハトホル女神は愛、美、音楽、出産を司る女神で、しばしば牝牛の姿で表現されます。

<様々なレリーフ>
神殿内の至るところでネフェルタリのレリーフが見られます。こちらの画像(↓)はネフェルタリの戴冠式。左手のハトホル女神、右手のイシス女神が祝福します。

こちらはハトホル女神に捧げ物をするネフェルタリ。

こちらは、妊娠と出産を守護する女神・タウレトにパピルスを捧げるラムセス2世とネフェルタリ。

ヌビアの捕虜を棍棒で打ち据えるラムセス2世の姿も…。このようなラムセス2世が人を痛めつけるレリーフがたくさんあり、残酷な面が垣間見えます…。

太陽神ラーに捧げ物をするラムセス2世のレリーフ。

あまり描かれることのない、古代エジプト神話の悪役・セト神のレリーフもありました。この場面はセト神とホルス神がラムセス2世に王冠を授けているところです。

遠くても訪れたい!ラムセス2世の野心が詰まったアブシンベル神殿
今回はアブシンベル神殿の基本情報と実際に訪れた様子をお届けしました!
この神殿は、ラムセス2世の権力への野心と、最愛の王妃への想いが刻まれた特別な場所。エジプトを訪れるなら、ぜひ最南端のアブシンベルまで足を運び、ラムセス2世の「野心」と「愛」を体感してみてください。
当時のリアルな様子は、ポッドキャストでもお話ししています。よかったらこちらもチェックしてみてくださいね!